スズメがこんなにも表現豊かな生き物であるとは知りませんでした。

私がまだ大学生だった頃の事ですが、庭先にスズメのヒナが落ちているのを見つけました。まだ羽毛も生えそろっていない、片手にすっぽり収まってしまうくらい小さいヒナだったので、とりあえず拾って家族で面倒を見る事に。放っておいても親鳥が面倒をみるという話も聞きますが、ウチの周りにはネコがうろついているので、まだ全く飛べる状態でないヒナをそのまま放置しておくのは、危険だろうと判断したからです。

その時期、まだウチにはコタツがあったので、小さい箱に丸めたティッシュをたくさん詰めてフワフワにした上にヒナを置いて、その上に更に布を被せて、一番弱くしたコタツの中に入れ、ヒナの体が冷えないようにしておきました。私には弟がいるのですが、彼はとてもマメな上に心配性なので夜中何回も起きてきて、ヒナの様子をみていたようです。

餌は、すり餌を水で溶き、耳かきですくって与えていました。くちばしをツンツンと突くと驚くほど大きく口を開くので、餌を食べさせるのは簡単で楽しかったです。結構な勢いで餌を食べた後には、必ずする儀式があります。そう、食事の後は必ず排泄をするのです。でもその様子が可愛い。親ばかでしょうか。急にそわそわしたかと思うと、私達にお尻を向けてプルプルと振り、『さぁ、今からするぞ!』と合図を寄越すのです。私達をそれを「トイレダンス」と名付け、ティッシュを用意して、出てくるモノを落とさないように受け止めます。

しばらくすると羽も伸びてきて、拾った頃よりもずっと可愛くなりました。常に手のひらに乗せて撫でたりして可愛がっていたので、ヒナもよく懐いていたと思います。主に面倒を見ていたのは弟と私でしたが、特に可愛がっていたのは弟だったので、ヒナも彼の手の中にいる時が一番安心しているように見えました。私にも懐いてはいましたが、弟に対する時とは、明らかに態度が違います。

出かけていた彼が戻ってくれば、弟の頭の上に乗ってじたばたと大はしゃぎ。彼の掌で撫でられていると、催眠術にかかったように眠ってしまったり。そんな態度は、他の家族にはとりませんでしたから。弟ほどヒナに愛されていたわけではない他の家族メンバーですが、他人よりはずっと好かれてました。なぜそんな事が分かるとかというと、他人が来た時には、カーテンレールの上から下りてこないばかりか、『早く帰れ!』と言わんばかりに、ギャーギャー鳴き声をあげて騒ぐからです。スズメがこんなにも表現豊かな生き物であるとは知りませんでした。

ある日、私の不注意で窓から外に飛び出してしまい、そのまま戻らなかったスズメ。許可なく野鳥を飼うのは違法ですし、野生に帰ったんだと諦めました。あっけない別れになりましたが、可愛い思い出をたくさん残してくれました。今でもスズメを見ると、あのヒナの事を思い出します。

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